紙の使用は悪か?

「地球温暖化の原因の一つは、森林破壊だ!」
「ペーパーレス化によって紙の使用量が削減され、結果、わが社のCO2排出量も減少しました!」

こういう話を耳にすると、紙の使用に対してネガティブな印象を持つ人も多いのではないでしょうか。実際に私も今から3年前に、紙を本業とする企業から「紙の使用は環境に良い、と訴求する内容で特集を書いてほしい」と依頼され、「え? そんな好都合なストーリーを書けるかな…」と不安に思ったのを覚えています。当時の私は、今よりはるかに勉強不足でした。

紙には「Write(書く)」「Wrap(包む)」「Wipe(拭く)」の3つの「W」で始まる機能があります。ペーパーレス化で影響を受けているのは、Writeの機能で、書くことによる情報伝達機能は、手紙がメールに、切符がICカードに、紙幣が電子マネーにと、デジタルに取って代わられています。一方、脱プラスチックの流れによってWrapの機能は、ストローのように、「紙」へと切り替える方向での見直しがさまざまな領域で進んでいるのも事実です。

紙の原料は言うまでもなく「木」です。高く伸びた木が何本も伐り倒されるシーンを連想すると、木を伐ること自体が環境破壊そのものとリンクして捉えられがちです。確かに、世界の森林面積は、アフリカ、南米などの熱帯林を中心に減少を続けています。しかし、ヨーロッパやアジアではわずかに拡大しており、国土の約7割を森林が占める日本でも、過去半世紀近く、森林面積はほぼ横ばいで推移しながらも、森林蓄積(森林を構成する樹木の幹の体積)は人工林を中心に約2.6倍に増えています。

小学校の理科で植物の「光合成」を学習しますが、日中は光合成のために酸素を排出する植物も、夜間は呼吸のために二酸化炭素を排出します。森林が二酸化炭素を吸収するのは、生長過程にある若い木が光合成をしているためであり、木もひとたび生長が止まれば、ほとんど光合成はせずに呼吸のみが続く状態となります。そのため、生長の止まった老木を伐採し、そこに若い木を植えれば、二酸化炭素の吸収効率は高まり、森林の活性化が図られる、つまり、木を伐らずそのまま老木が増えていけば、森林の新陳代謝は落ちていくのです。

今では、FSCマークやREFCマークなどの森林認証紙をはじめとする環境配慮型の紙が多く流通しています。製紙メーカー各社も、一方的に木を使うだけにするのではなく、使った分だけ新たに植林する循環サイクルを製紙工程に組み込んでいます。製紙工程で大量に使用される水についても、基準値以下に浄化して戻しています。このように自然と調和しながら紙が生産され、使用後も古紙として回収され、今度はトイレットペーパーのような「Wipe」機能を果たす紙に戻るのならば、「紙」はサステナブルな循環型素材ではないでしょうか。

いや紙に限らず、自然の恵みである「木」そのものが循環型素材なのです。昨年、私が執筆を担当した建築資材の企業(同社の統合報告書はこちら)も、木質資源の徹底的な循環利用を追求しています。同社は建材を本業としながらも、木材チップを原料に、植物の生育を促進する土壌改良剤や培地も開発しています。最初、私は「建材の会社がなぜ?」と、すぐにはその背景が理解できませんでした。しかし、二酸化炭素を吸収した木を、安易に燃やすのではなく、さまざまなマテリアルへと姿・形を変えながら活用していくことで、炭素は木の中で固定・貯蔵され続けるということ、そして、二酸化炭素を吸収することで育つ植物の栽培にも貢献できるということに気づいたときに、頭の中に循環サイクルの絵が浮かび、「え! すごいかも!」と思いました。適度な木の伐採と紙の使用は、サステナブル社会と相反するものではない。そういう考えが、もっと認知されると良いなと思います。

(佳)