低PBR改善に向けた取り組み

東京証券取引所(東証)は3月末に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に、PBR改善に向けた具体策を開示・実行するよう要請した。求められる開示内容は2つ、PBRが1倍を下回る要因分析と改善に向けた具体策である。(開示形式は自由、年1回以上更新する) PBRが1倍を下回っているということは、株価がその企業の純資産よりも安いことを意味し、資本市場がその企業の将来の成長や収益性に対して評価していないことをあらわす。

東証のプライム市場およびスタンダード市場の2市場で、PBRが1倍未満の企業は約1,800社と全体の5割強を占めている。1,800社の中には、時価総額の小さなものから大きなものまで含まれているが、時価総額上位の銘柄ではトヨタ自動車、三菱UFJ、ソフトバンクグループも含まれる。ちなみに、東証株価指数(TOPIX)500構成銘柄のうちPBR1倍割れの企業の比率は43%。これに対して米国S&P500種株価指数では5%と、この差を埋めるには上場企業に改革を迫る東証と改善に取り組む企業の本気度が欠かせない。

ここでPBRを向上させるためには何が必要か考えてみたい。PBRはPER(株価収益率)とROE(自己資本利益率)を掛け合わせた値である。PERは投資家の評価や市場動向といった外部要因で決まるが、ROEは企業側の努力で向上することができる。さらにROEを有名なデュポン公式で示すと以下計算式(*)のように「売上高純利益率」×「総資産回転率」×「財務レバレッジ」の3つの要素に分解でき、これら要素を各社の取り組みによってどのように変えたいのかが開示のポイントとなるであろう。

*ROE =(純利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷株主資本)

一部の企業ではPBR改善に向けた取り組みが始まっており、例えば大日本印刷は3年間で3,000億円の自社株買い計画を公表した。確かに、自社株買いや増配によって「財務レバレッジ」の改善は実現できるが、果たして持続可能な施策なのだろうか。東証や資本市場が期待するのは、こうした一過性のものではなく、中長期的な利益成長に必要な事業ポートフォリオの見直しや経営資源の配分等についてである。今後各社から具体的な取り組みが開示されることを期待したい。