次世代半導体の新会社「ラピダス」始動
次世代半導体の新会社「ラピダス」が国内企業8社(トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、キオクシア、NTT、NEC、ソフトバンク、三菱UFJ銀行)から73億円の出資を受け発足した。新会社は「ビヨンド2ナノ」と呼ばれる半導体の微細化技術を確立し、5年後を目途に国内で量産拠点をつくる。
国内の半導体産業を分野別に俯瞰すると、CMOSセンサー(ソニー)、メモリー(キオクシア)、製造装置(東京エレクトロン等)、検査装置(アドバンテスト等)、材料(信越化学工業等)の分野では世界市場で戦える企業がある一方で、ロジック半導体の分野では大きく後れを取っている。これまで日本の半導体メーカーはロジック半導体の分野で積極的な投資をしてこなかったため、日本の微細化は40ナノで止まっている。一方、微細化技術で先頭を走るTSMCの決算資料を見ると、総売上の19%を5ナノ品、31%を7ナノ品が占めている。世界のロジック半導体の生産能力を地域別にみると、10ナノ未満の製造ラインの9割は台湾、残りは韓国にあるといわれる。
今後は自動運転、AI、スマートシティ等の領域で最先端のチップが不可欠となってくる。このままでは、自動運転車をつくろうとする自動車メーカー各社は、車載半導体メーカー経由でTSMC1社に生産委託するというボトルネックを抱えることになる。この制約を打破し、台湾や韓国に水をあけられた日本が再び半導体産業の先頭集団に仲間入りするという壮大な戦略が成功するためには、特に人材と資金の確保が不可欠と考える。
人材については、新会社としての採用を中心に考えているようであるが、TSMC熊本の採用でもかなりの好条件が提示されているように、専門性の高い人材確保には十分な資金手当が必要となる。また当面は研究開発のステージで、その後には相応規模の量産投資が必要となる。目指す規模感は違うかもしれないが、TSMCの2021年の設備投資は300億ドル(約4兆円)にのぼる。米国政府は先端半導体に関して5兆円を超える補助金を準備しているが、今回の日本政府による補助金は700億円と規模が小さい。事業による資金創出が難しい局面で、どこまで国の補助金や賛同企業の出資に依存できるのか不透明である。ラピダス社が自らの将来ビジョンを打ち出して資金調達することも視野に入れる必要があると考える。