トップメッセージは一人称単数で発信する
株式会社クレディセゾン様の「統合レポート2020」が、先般、米国で賞を受賞しました。昨年初めて、同社の統合報告書の執筆協力に携わらせていただいた身としては、うれしい気持ちでいっぱいです。
企業のトップメッセージは、統合報告書やアニュアルレポートなどにおいて、一番多く読まれるコンテンツだと言われています。そこには、会社の長期ビジョンや中長期戦略、さらにはメガトレンドを見据えたリスクと機会の認識、ESGやSDGsへの考え方など、視座の高い話が多く盛り込まれます。私は職業柄、さまざまな企業のトップメッセージを読む・書く機会がありますが、発行から半年以上経った今もなお、同社の林野宏CEOメッセージは私の記憶に深く残っています。なぜなら、一人称単数にあふれたメッセージだからです。
日本語は主語を省略することができる言語ですが、それでも主語を使う場合、多くの企業では、トップメッセージにおいても「当社(グループ)は…」「私たちは…」といった表現で書かれています。「個人」の話ではなく、「会社」の話をしているのですから、それも当然でしょう。ただ私は、トップメッセージを一通り読み終えて、トップご自身ならではの言葉が見つからないと、すぐに記憶が薄れていってしまいます。
林野氏のCEOメッセージでは、戦略やビジョンといった「会社」の話についても、なぜそれが重要だと思うのか、どうしてそう考えるのか、といった同氏の経営哲学の礎となる背景について、ご自身の実体験エピソードとともに書いています。それによって、会社の戦略・方針とともに、トップのお人柄や考え方、熱い気持ちまでが臨場感を持って一つの「ストーリー」として伝わってきます。こうしたメッセージがいざ英訳されると、今度は一人称単数の「I」で語る内容が、強力なリーダーシップの感じられるメッセージへと、日本語以上にパワーアップして発信力を発揮するように思います。
海外企業の中では、トップ自らが筆を執り、トップメッセージを書かれるケースもあると聞きます。そのスタイルが日本企業の中でも普及してしまうと、私のお仕事もしぼんでしまうのですが、この、ご本人にしか語れない実体験や熱い気持ち・情熱を拾い上げ、それを企業戦略や経営思想と絡めて、一人称単数の語り口でストーリーとして発信していくこと。このプロセスを通じて、今後も、読み手の心に残る、魂の入ったトップメッセージの発信をお手伝いしていきたいと思います。
(佳)