社会的弱者もステークホルダーとして意識する

今年も数多くの企業様の統合報告書等の作成に携わらせていただいています。8月も半ばに入り、怒涛のような取材・執筆スケジュールが徐々に平常ペースに落ち着いてきました。

統合報告書は、企業の財務情報と非財務情報の双方を企業の価値としてまとめ、社内外に広く発信するツールとして作成されますが、その中にはほぼ必ず「ステークホルダー(利害関係者)」についての記述がなされます。ステークホルダーとは、株主・投資家、顧客、お取引先、従業員、地域社会、行政など、企業が直接または間接的に影響を受ける関係者を指し、企業がステークホルダーに向けてどのような姿勢で取り組んでいるか、最近ではステークホルダーエンゲージメントの具体的な取り組みも交えて紹介している企業も少なくありません。

しかし、ステークホルダーは、上述したこれらに限りません。恥ずかしながら、私がそのことにハッと気づかされたのが、2021年3月に受講したGRI (Global Reporting Initiative) 認定スタンダード研修でした。GRIスタンダードは、世界で最も広く採用されている非財務情報の国際基準で、日本でも多くの企業がこのGRIスタンダードを利用して統合報告書やサステナビリティ報告書等を発行しています。GRIスタンダードに準拠した統合報告書を作成する上では、必ず適用しなければならない10の「報告原則」があり、その一つが「ステークホルダーの包摂 (Stakeholder Inclusiveness)」となっています。そこで「ステークホルダー」についてのGRIの定義を見ると、「従業員、株主、従業員以外の労働者、サプライヤー、地域コミュニティ、NGOなどの市民社会組織」と並んで「社会的弱者 (vulnerable group)」と記載されていることに気づきました。直接的な関与がほとんどなくても、忘れてはならないステークホルダーだと思いました。

コロナ禍でリモートワークが進み、なかには顔は出さずに音声だけONにしてオンラインミーティングをするスタイルが定着している企業も多くあります。ただ、そのようなミーティングスタイルが定着すればするほど、耳の不自由な方のミーティング参加機会を排除してしまうことにつながると、どれだけの企業が気づいているでしょうか。MOOC(大規模オンライン講座)などでは、講師の話した内容がテキストで見ることもできます。テクノロジーの力で、オンラインミーティングでの発言が即座にテキスト化されれば、耳の不自由な方も参加機会が増えます。もっと言えば、ミーティングの発言が即座に多言語で展開されればもっと便利になるのではないか、とも思います。

児童や高齢者、障がい者、女性、LGBTQ、失業者、少数民族、難民、貧困層など、雇用や就学の機会や人種・宗教・国籍・性別の違い、あるいは疾患などによって、所得・身体能力・発言力などが制限され社会的に不利な立場にある社会的弱者を「当社のステークホルダー」と明記している日本の上場企業は、現状、あまり多くありません。ただ、ステークホルダーとして相手が見えているのと、見えていないのとでは、進む方向性も大きく異なってきます。そのように認識することはまた、SDGsの「誰一人取り残さない」社会の実現にもつながるのではないでしょうか。

(佳)