持続的な成長に必要なこと
年末の風物詩「新語・流行語大賞」には「ARE」が選ばれた。株式市場の流行語大賞があるとすれば「PBR」かもしれない。2023年3月、東京証券取引所(東証)はプライム・スタンダード市場の全上場企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請した。東証が2024年1月にはPBR改善策の開示企業一覧を公表することもあって、各社から改善策の開示が相次いでいる。
これまで各社が打ち出した施策をみると、自社株買いや増配といった株主還元が目立つ。成長戦略が描きにくい成熟業界であれば、成長投資の資金ニーズが少なく、結果的に株主還元策を選択することは理解できるが、成長セクターにおいては中期的な企業価値の成長ストーリーを提示した上で資本市場と対話させることが東証の狙いと思われる。
例えば、キリンホールディングスはPBR約1.5倍であるが、少子高齢化で市場拡大に限界がある酒類や清涼飲料から、100年以上にわたって培ってきた発酵・バイオテクノロジーを活かして、医薬などへの構造転換を進めると強調した。オリンパスは祖業である工業用顕微鏡などの科学事業を米投資ファンドに売却、医療事業に経営資源を集中させグローバル市場で持続的成長を目指す。成長戦略を描くのに必要なことは、自社の強み・弱みの分析と、外部環境の変化から事業チャンスを見極めることだ。これは上場企業に限った話ではなく非上場企業も同様である。
財務省が2023年9月に発表した法人企業統計によると、2022年度の大企業(資本金10億円以上)の内部留保は511兆円と年度としては過去最高を更新した。先行き不透明を理由に日々内部留保にお金を回すのではなく、経営者はビジョン実現に向けた成長戦略を描き、新しい事業を生み出すために研究開発投資すること、M&Aでオープンイノベーションを加速することなど、持続的な成長に取り組むことが求められる。2024年は辰年、「竜の水を得るが如く」日本企業の成長投資が新たなムーブメントを起こすことに期待したい。 (弘)