夏休みの終わりに、気候変動対策を考える

元米国副大統領のアル・ゴア氏によるドキュメンタリー『不都合な真実 (An Inconvenient Truth)』が米国で公開されたのは2006年。当時私はまだ会社員で、投資家向けIRを主業務としていましたが、投資家から企業の環境対策について問われたことは皆無でした。私自身の意識も低く、不都合な真実を突き付けられても、ちょっとした個人のエコ活動などでは到底対抗できそうにない大きすぎる課題を前に、何か知りたくないものを知ってしまったといった後味の悪い気持ちになったことを鮮明に覚えています。

あれから15年。各地で見られるゲリラ豪雨や洪水、山火事、台風・ハリケーンの激甚化など、『不都合な真実』でも警鐘を鳴らしていた地球温暖化とそれによる気候変動が、グローバル喫緊課題であることを否定する人はいまやほとんどいなくなりました。今月にはIPCC*が、20年以内に世界の平均気温が産業革命以前に比べて1.5度以上上昇するであろうと、当初の想定よりも気温上昇が早まるとの見解を示しています。

私が、環境に対する取り組みが個人レベルも含めて最も進んでいると感じるのが欧州です。件のドキュメンタリーの生みの親・米国でも、大きく舵を切り直したのはバイデン政権に交代した今年からです。一方南半球では、グレートバリアリーフが今年「危機」認定されたオーストラリアで、CO2排出量ネット・ゼロを宣言した企業の数が3倍に増えたとの記事も見られます。

実はこのオーストラリアは、オゾンホールの影響で、日本の約7倍の強さの紫外線が降り注ぎ、皮膚がん発症率が世界一高い国とされています。少し前までは干ばつ対策に力を入れていた同国でも、年々サンダーストームが激甚化し、ゴルフボール大の雹が降るなど、干ばつ対策とは真反対といえる治水対策も大きな課題となっているそうです。(積水ハウス・リート投資法人様の「第13期資産運用報告」より)

日本もようやく昨年10月に「2050年のカーボンニュートラル宣言」をしました。政府の舵取りの影響は非常に大きく、今年1年、さまざまな企業のお手伝いをさせていただく中でも、多くの企業が日本政府による「2050年カーボンニュートラル」を意識した上で、環境に対する取り組みを急ピッチで進めていることを感じます。しかし、今からで果たして間に合うのでしょうか? まるで、とうの昔に「宿題」の存在を知っておきながら、夏休みも終盤になってからようやくお尻に火がついて必死にそれに取り掛かっているかのような、そんな切羽詰まった焦りを覚えます。それでも未来を無事に迎えるためには…。徹夜になろうと、家族を総動員してでも、この宿題はやりきらなければなりません。

*IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change: 国連気候変動に関する政府間パネル

(佳)