世界自然遺産・奄美大島で思う、声なきステークホルダーへの影響(生物多様性)

今月、奄美大島を訪問した。​奄美大島は、徳之島、沖縄県北部、西表島とともに、2021年に世界自然遺産に登録されている。哺乳類や鳥類など、多くの絶滅危惧種が生息する自然豊かな島だ。なかでもアマミノクロウサギは、ナイトツアーに参加するとほぼ100%の確率で遭遇できるという。実際に私も、元祖ナイトツアーさんのナイトサファリツアーに参加し、アマミノクロウサギ3~4匹のほか、アオバズク(フクロウ科)や国内最大のケナガネズミなどの絶滅危惧種に遭遇できた。

奄美大島では、絶滅の危機に瀕していたアマミノクロウサギを、2003年からの約20年で5倍以上に数を増やしている。絶滅に瀕してしまった理由と、その回復に要した年月を考えると、人間の、実に近視眼的な発想が、いかにたやすく生物多様性を損ねる要因につながるのかを思い知らされる。いまや国民病でもあるスギ花粉症だって、何年も前にスギの植林を決めたときには、後世の日本人がこんなにも悩まされる事態になるとは思いもしなかったであろう…。

本題に戻る。アマミノクロウサギは、世界でも奄美大島と徳之島にしか生息しない。そこに1979年、猛毒を持つハブの駆除を目的に、人間が島外からマングースを持ち込んだ。すると、そのマングースに捕食されてアマミノクロウサギの個体数が激減したのだという。2003年の推定生息数は2000~4800匹。まさに絶滅の危機に瀕していた。

ここからの絶滅危惧種を守るための取り組みがすごい。2000年にマングース駆除事業が立ち上がり、マングースを捕獲するプロ集団「奄美マングースバスターズ」が島内に約3万ものワナをしかけた。そして一時期は1万匹にも達したマングースが、2020年には10匹以下にまで駆逐されたのだという。それに伴い、2022年に発表されたアマミノクロウサギの推定生息数は1万~3万4400匹に増えた。

人間が当初、駆逐目的としていた「ハブ」は、実はアマミノクロウサギにとっては、長年、共生してきたお相手だった。大人のアマミノクロウサギは体長40~50センチと、ハブには呑み込めない。また、外気温が下がってハブの活動できない11月~12月に出産することで、アマミノクロウサギも子ウサギを守ることができていたのだ。天敵がほぼいない環境下で、アマミノクロウサギの繁殖の仕方も、多頭出産で知られる一般的なウサギと異なり、年1匹と少なくなる方向に進化してきた。それゆえに、一度激減した個体数を回復させるまでには長い年月がかかった。

こうしたストーリーは、認定ガイドさんがとても丁寧に教えてくださる。奄美大島での世界自然遺産の訪問には、自然環境保護の観点から、現地の認定ガイドさんによる同行が必須だ。今回、金作原(きんさくばる)の原生林散策やマングローブカヌーをご案内くださったアイランドサービスのガイドさんや、前述の元祖ナイトツアーのガイドさんのは豊富な知識と丁寧なご説明には、とても感動した。

企業のサステナビリティ領域では、脱炭素対応の次なるテーマとして、生物多様性への取り組みが注目される。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応などの対応も、今後本格化してくるだろう。自分たちや社会に「善かれ」と思った発想が、声なきステークホルダーに悪影響を与えていないか。ビジネスにおいて、迅速な意思決定は競争優位性を発揮する上でも重要だが、拙速ゆえに長期視点が欠けることのないようにしなければならない。

(佳)