ガンバレ、受験生!
年末年始をのんびり過ごす人たちの陰で、正月など関係なしに朝から晩まで、もう、すぐそこに控えている受験本番に向けてラストスパートをかけている若者たちがいる。インフルエンザに加え、昨年からはコロナという見えない敵との闘いもある今の受験生は、例年以上に気が休まらないだろうなと不憫に思う。
私の出身大学・学部は、私が受験した約30年前からテスト科目や配点が変わっていない。英語200点、社会(歴史科目)100点、小論文100点の計400点と、今、振り返っても、かなり英語に力点を置いた配点だなぁと感じる。その英語について、一部の私大では外部検定試験が利用できるようになっているが、その外部検定試験の受検料の高騰ぶりが尋常でない。例えば英検(公益財団法人日本英語検定協会)。2002年度までは、3級が2,000円、2級が3,500円、準1級が4,500円だったのが、今では、3級が7,900円、2級が9,200円、準1級が10,700円と、ディズニーランドのチケットも顔負けの値上がりぶりだ。受検する人の大半が学生なだけに、ちょっとこの価格設定はどうなのよ?と思う。この検定の価値、特に下位級については受検する意義すら、考え直したくなる。
ここ数年、私が株主通信のライティングを担当させていただいている企業に、学生向けマンション業界の最大手企業がある。25年超もの間、管理戸数や売上を右肩上がりに伸ばしてきた長期安定成長企業と知ると、「少子化なのになぜ?」と思う方も多いだろう。18歳人口が減少しても大学進学率の上昇により大学生数は約300万人弱で横ばいを保っている。食堂などの共用部が、学生たちにとってはコロナ禍で貴重なリアルでの交流の場となっているという同社の学生マンションは稼働率99%と人気が高く、中期計画目標を上方修正する旨が発表された。同社が入居学生向けに実施したアンケートからは、「コロナ禍で一人暮らしを辞めようと思ったことがある」大学生が6割強に達するなど、学生たちのリアリティ溢れる声が読み取れる。私が感心したのは、コロナ禍を理由に2020年春入社の内定を取り消された大学生を対象に、同社が採用試験を追加実施したことだ。大量採用とはいかなくても、自社が学生たちのためにできることは何か、と常に考える姿勢が表れていて素晴らしい。
約2,000万人の大学生数を抱える米国でも、American Campus Communitiesという学生向けに部屋を提供する上場企業がある。資本市場では高配当銘柄として有名な同社だが、同社もこのコロナ禍で、“Hi, How Are You Project”と称する学生向けメンタルヘルスサポートプロジェクトを展開するなど、コロナ禍で学生が直面している課題に寄り添う取り組みを行っている。
英検も、学生向けマンションも、学生が重要なステークホルダーである点は共通している。コロナ禍での試験会場の確保を値上げ理由とした英検の採算重視の姿勢も、少し前の株主資本主義時代の感覚なら「あり」だったかもしれない。しかし今、世界は、ものすごい速いスピードでステークホルダー資本主義へと移行している。グローバルに目線を向け、世界情勢をいち早くキャッチする上で欠かせないスキルである「英語」を看板に立てながら、英検は、そのステークホルダーとしっかり向き合えているだろうか。
昨年、英検の受検料引き下げを求め3万人もの署名をネットで集めた高校生がいた。偶然にもその高校生が、私の参画するアルバ・エデュで出会った知人の娘さんだったのが嬉しい。こうした動きもあってなのか、来年度英検は、雀の涙ほどだが、値下げを実施するらしい。ステークホルダーの軽視は、そもそもの存在意義を疑われかねない。SDGsのGoal 4にも「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」とある。試験に当落はつきものだが、誰もがSDGsを学ぶ時代には個々の試験の「価値」も世に問われているのだ。ガンバレ、受験生!
(佳)