エンゲージメントが高める無形価値

企業が、株主・投資家、お客様、サプライヤー、従業員、地域社会など、事業活動を行う上で関わるさまざまなステークホルダーと対話を重ねる「ステークホルダー・エンゲージメント」が重視されています。企業側から主体的にステークホルダーにアプローチをして対話を持ち、ステークホルダーの要望・期待を知ることで、企業が取り組むべき重要かつ優先的な課題(マテリアリティ)が特定でき、それを事業活動に反映することで持続的成長を実現しやすくなるからです。

私は昨年4月から1年間、オイシックス・ラ・大地の第3期「大地を守る会消費者モニター委員会」の消費者モニター委員を務めました。「これからの食卓、これからの畑」を大切に考える同社は、Oisix、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会の3つの食材宅配会社が経営統合によって一つになった企業です。消費者モニター委員は、商品モニターとは異なり、消費者として、大地を守る会の幅広い事業活動について、畏れ多くもご意見をさせていただく立場。消費者という切り口で、同社のステークホルダー・エンゲージメントに取り込んでいただきました。

1年を振り返ると、毎回、大地を守る会への愛に溢れる他のモニター委員3名の方々と一緒に「推し活」(ファン活動)をしているような、楽しい時間ばかりでした。有機野菜・自然食品で知られる大地を守る会の食材は、「安心・安全」「美味しい」だけでも十分高い価値を生み出していますが、同社では生産者との顔の見える関係を大切にし、畜産の餌や土壌の肥料成分など、生産者の方々のこだわりや惜しみない努力を広く伝えようと積極的に情報発信しています。モニター委員の活動の中で、同社の取り組みへの理解・共感が深まり、また社員の方々との双方向での対話を通じて、私自身も同社の価値協創に関わっているという当事者意識が高まりました。

昨今、消費者の購買行動は、目の前の商品・サービスの良さだけでなく、それらを提供する企業の取り組みへの共感も重視するように変化してきたと言われます。果たして私はどんな消費者か?と考えると、取り組みを理解・共感し、ファンになって応援している企業はほんの一握り。その1社、大地を守る会についても、モニター委員になる前の私は、同社から発信される情報の多くをスルーしながら、「大地の食材は安心!」と毎週ポチるだけで、すっかりファン気取りでした…(汗)。

今回の経験を通じて、エンゲージメントは、企業側がステークホルダーの要望・期待を知るだけでなく、ステークホルダー側も企業への理解を深める機会となり、その結果、エンゲージメント参加者の当事者意識とファン度という無形の価値を高める効果があると感じました(もちろん、知れば知るほどファン度が増す取り組みが揃っている企業であることが前提になりますが)。ステークホルダー・エンゲージメントの中でも、殊、対消費者に対しては、エンゲージメントへの注力が後に経済価値となって返ってくるような効果も期待できるように思います。となると、次なる「推し活」は株主になることか、っとさまざまな展開が、今、私の頭の中を駆け巡っています。

(佳)